● 蛙の毒 ● 毒を持つ種類の蛙は、主に自己防衛の為にその毒を使っています。比較的 大型のヒキガエルから、体長2cm足らずのヤドクガエルにおいても、その毒は 獲物を捕らえるための攻撃や消化のためには使われていないようです。 ヒキガエルなど大型の蛙は、後頭部にある耳腺や皮膚にある腺から数種の成 分からなる毒を分泌し、外敵から身を守っています。小型の肉食動物や多く の蛇達はこれによりヒキガエルに手を出さなくなる訳です。 同じく、ヤドクガエルの仲間も皮膚腺から毒を分泌して己を守ります。ただ 彼らの中の最も強力な種類の毒は、補食者が口に入れてちょっと苦い思いをす るだけでは済まないほど強力なものです。 これにはやはり身体の大きさが関係しているのでしょうか? しかし、だとしたら日本のアマガエルなどが猛毒を持つ動物じゃなかったこ とに感謝したい気分です。多分、100回ぐらい死んでいるでしょう、少年時代 の私は。 ●ブフォトキシン……ヒキガエル ●バトラコトキシン……ヤドクガエル ●ヒストリオニコトキシン……ヤドクガエル ●プミリオトキシン……ヤドクガエル ■ヒキガエルの毒【ブフォトキシン】 蛙の中では大型になる彼らは、ブフォトキシンなる毒を持っています。この毒は天敵 である蛇から彼らを守るのに大いに役立ってはいますが、完璧とは言い難いようです。ニホ ンヒキガエルBufo bufo japonicusはこの毒を持ちながら、逆に好まれてヤマカガシ(こ ちらも有毒の蛇)に補食されてしまうそうです。 同じヒキガエルの仲間で南アメリカ北西部に生息する、 オオヒキガエルBufo marinusは、 大きく発達した耳腺から、補食者の口や目に向けて1mも毒液を飛ばすことができるといい ます。このヒキガエルを食べようとした犬などは、後で大変な痛みを味わうことになるそ うです。 この蛙は農業害虫やネズミなどを食べるので、世界各地の熱帯から亜熱帯地方に移入さ れています。しかし、移入された時に、この蛙を食べるのは危険であるとの警告がなされ なかったため、フィジーやフィリピンでは、習慣的に蛙を食べる人々がオオヒキガエルを 食べ、死亡すると言う事件が多発しました。ペルーの農夫の中には、この蛙の卵でスープ を作り、それを飲んだだけで死亡した人もいると言います。 この話に関連して、ヤドクガエルの中に雌ガエルの無精卵を専食して育つオタマジャク シの餌に、ヒキガエルの卵を代用したところその卵の持つ毒のためにオタマジャクシが死 亡したと言う話も聞きます。 しかし、ヒキガエルのオタマジャクシには毒がないそうです。 そしてまた、ヒキガエルのオタマジャクシが変態し蛙になる時には毒を出すと言うので す。はて、そんなにコロコロ出したりひっこめたりできるものなのでしょうか? 不思議です。 ■人間に対する毒の効果【ブフォトキシン】 ブフォトキシンと呼ばれる毒には、数種の成分があり、その一つにブフォニンと呼ばれ るアミン系の毒があり、これには幻覚作用があります。もう一つはブフォタリンというス テロイド系の毒で猛毒です。 ブフォトキシンは口腔や粘膜に付着すると心筋や神経中枢に作用します。 生きたままのヒキガエルを皮ごと食べると言う人も滅多にいないでしょうが、万が一毒 が口に入って、吐き気や全身の軽い痺れなどを感じた時には、病院に行って医師の指示を 受けなくてはなりません。目などに入った場合は、しみて目もあけられないほどの刺激を 持つので、眼科で洗浄してもらわなければならないでしょう。 しかし、少量であれば心臓の活動を活発にする効果を持ち、ブフォタリンやブフォニン は、局部痲酔や鎮痛作用、止血効果もあるそうです。 ■ヤドクガエルの毒【バトラコトキシンその他】 南米に棲むこの小さな蛙たちは、まさに目のさめるような体色をし、目立つことを避 けようとせず、むしろそうやって目立つことで外敵に警告を発しています。 その名にしおう「矢毒」とは、つまり、矢じりにつける毒の事を指しています。現地の 人たちはヤドクガエルの毒を使って狩りをするのです。 その美しい皮膚に恐ろしいほど強力な毒を持つ彼らは、外敵の目を避ける必要があり ません。しかし中には猛毒持つ種より派手な体色をしていながら、その実あまり強力な 毒を持たない種類もいます。ある種のちゃっかりさんとでもいえましょうか? 彼らの中でもっとも強力な毒を持っているとされたのは ココイヤドクガエル Phyllobates aurotaenia で、彼らの持つ猛毒バトラコトキシンは60kgの人間を たった20μgで死 にいたらしめてしまうほどのものです。μがいまいちピンときませんが、1gでふつうの 大人を10万人も殺してしまうほどの毒だと、本にはあります。ですが彼らはフルタイム 24時間、いつでも、なにがなんでも毒を分泌している訳ではありません。ココイヤドク がエルにおいては、串刺しにして火であぶるほどのストレスを与えた場合において、毒 液の分泌が促進されるのだそうです。 しかし、ほっとしている場合でない矢毒蛙が、ココイヤドクガエルの住んでいるとこ ろから約150km南に棲息しています。全身黄金色に輝いていると言う彼らの名はフィロバ テス・テリビリス、「猛毒吹き矢ガエル」。 この テリビリスガエルPhyllobates terribilis、前述のバトラコトキシンの濃い分泌液 を絶えず背中から出しており、素手で触ろうものならそれだけで一貫の終わりだと言う から恐ろしい!! まさにterriblyという訳です。 彼らは1gで10万人を殺すと言うこの毒を、一匹で2mgも持っています。と言うことは、 1mgは1gの千分の一ですから、一匹で2mgの毒を持つこの蛙は、単純に毒の量だけで言う と200人の大人を殺せるほどの毒を持っているのだということです。 この彼らの毒がいったい何を起源にしているのかは定かではありません。一説には食 餌由来とも言われています。 しかしまた、彼らもオタマジャクシの時には毒を持たず、変態後に生産されるそうです。 幸いというか残念ながらと言うか、日本にはまだ彼らは未輸入のようで す。……ちょっと安心ですネ。 ■人間に対する毒の効果【バトラコトキシン】 テリビリスガエルなどが持つバトラコトキシンは、体内にはいるとちょうどフグ毒で あるテトロドトキシンと逆の働きをして、神経を麻痺させます。私も読んだだけの知識 ですが、簡単に言うとバトラコトキシンは人間が動くための絶対条件である仕組みを阻 害し、心臓に作用して、脈不全、心筋梗塞へと進行するのだそうです。 ■人間に対する毒の効果【ヒストリオニコトキシン】 同じヤドクガエルの仲間に、やはり南米に棲み、やや大型になる ハイユウヤドクガエルDendrobates histrionicus がいます。 彼らは、毒素と言うほどの毒性は示さず、派手な警戒色を持つヤドクガエルであるにもか かわらず、分泌物の毒性が低いと言うのは意外だそうです。 WC個体を触ったことがある訳でもなく、資料不足でもあるため、その細かな効果・症 状までは分かりませんでした。 ■人間に対する毒の効果【プミリオトキシン】 イチゴヤドクガエル Dendrobates pumilioと呼ばれる種類のヤドクガエルが持つ毒で す。こちらも資料が少なくいのですが、引用すると「神経および筋においてカルシウム イオンの膜透過、小胞からの放出を促進するようである。」とありますが、またしても よく分かりません。多分、なんらかの麻痺みたいなものが起きるのでは?と、想像し てます。 これらの蛙の毒に関しては、まだまだ研究が進められているそうです。生物毒の範 疇において蛙を含む両生類の毒は、まだまだ未知の部分が多いようです。 ここに公開した情報はその解きあかされた部分の、さらにほんの少しですので、無 論これが全てではありません。今後もなにか解ったら随時更新、改定していくつもり です。 その他、このページの情報について、ご指摘や新たな情報などいただけると大変有 り難いです。 猛毒動物の百科/今泉忠明 著/データハウス 生物毒の世界/日本化学会 編/大日本図書 図解 猛毒動物マニュアル/今泉忠明 監修/同文書院 Dendrobates pumilioの写真を貸してくださった、河村さん。 、Dendrobates pumilio、Dendrobates histrionicus の写真を貸してくださった、玉水さん。 Phyllobates terribilisの写真を貸してくださった、Anthony Hundtさん。 JFROG-NET メンバーの皆さん。 Phyllobates terribilisの2枚目の写真についての権利 Copyright (C) 1998 by Anthony Hundt. Used by permission. ・英語の分かる方はこちらもどうぞ。 (矢毒蛙および動物のページです。) The Dendrobatid Frog Page Animal Diversity Web |