◆ブラックウィドウの飼い方◆下図のようなケージを自作して、マダガスカル産ブラックウィドウ(L.menabodi)を飼育した。 ケージの中には見事な不規則網を張った。 餌は小コオロギから、成体になれば大きなコオロギも問題なく襲う。 たらふく食べると、残った餌は網から地面に捨てるのだが、そのまま放っておくと、また網に持って上がって食べたりなどの拾い食いもしていた。 給餌感覚はタランチュラと同じく、腹部の張り具合を見ながら、適当に与える。 餌は、コオロギの単食で問題ないだろう。 コオロギを床に這わせてやると、センサー糸が刺激され、スルスルと音もなく降りてきて、糸で素早くコオロギの動きを封じ、毒牙によって必殺の一撃を加える様が見られる。 タランチュラの、乱暴な捕食シーンを見慣れている者にとっては、非常に興味深く、優雅とも言える捕食シーンである。 飼育温度は25度を平均として、大半のタランチュラと同様で問題はなかった。 湿度環境は、ドライ。 水分は、2〜3日に一度、ケージ前面、上側のスライドドアを開けて、そこからミストの霧吹きで網に水滴がつくようにしてやると、それを舐め取っていた。 野生下でもそうして、凝結した水分を補給していると思われる。 購入時に体長1センチ未満の幼体は4ヶ月程度でほぼ成体サイズになり、無精卵を産んだ後、冬に暖房の故障で、呆気なく他界してしまった。 単に寿命が来ていたのかも知れないが、しかし惜しいことをした。 また飼いたいのだが、なかなか国内入荷が望めないので、現在は自作の専用ケージだけがぽつねんと飼育室に置いてある。 まことに寂しい限りである。 それでは、具体的な飼育ケージの説明に入ろう。 このケージは、無印良品のアクリル製のCD収納ボックスをベースにしてある。 ボックスを立てた状態で、前面に2枚のスライド式のアクリル扉を設けた。 上が給水用で、下が給餌/掃除用である。 ケージ上部の両側面と上面には、ドリルにて多数の穴を開け、通風を良くしてやる。 穴は決して、大きなものにはしない。 ブラックウィドウと言うと腹部がまん丸にふくらんでいるイメージがあるが、それは満腹の時であって、空腹の時とはかなりの差が生ずる。 ケージの空気穴は少なくとも、クモの腹部の直径の半分以下にするべきだ。 ケージの中には、図にあるように小枝を配置し、最初に巣を張る際のとっかかりにしてやると良い。 ブラックウィドウは、ツルツルの壁面を上れないからだ。 ブラックウィドウは、野生下では主にサソリなど、地を這う虫を捕食している。 よって、獲物を関知するセンサー糸は、下方の地面に対して、多数が張り巡らされる。 そのセンサー糸をうまくひっかけられるように、ケージの床面には、金網などをはってやろう。 排泄物や、餌動物の死骸の除去は、下方のスライド扉を開けて、ピンセットで行うがその際、むやみにセンサー糸を刺激しないようにうまくしないと、餌と間違えて襲われる時があるので、注意しよう。 どんくさいイメージのクモであるが、自分の巣の中を移動するスピードは、かなり素早いのだ。 そして、もともとの性格はさほど(…というか、全然)攻撃的でもないのだが、ケージには安全を考えて、一応は鍵をつけることをお勧めする。 「ブラックウィドウ」といえばすぐさま「猛毒」「死」とかいうイメージがつきまとうが、実際に飼育してみるとかなり拍子抜けする生物である。 性格はいたって臆病であり、ピンセットでつついてみたりすると、そのまま死んだフリを決め込んだりもする。 ただし、ひょっとしたことから咬まれれば、強烈な神経毒であることだし、死ぬ確率は少ないとしても、ただではすまないであろう。 とりあえず、初心者の方には到底飼育を勧められるような生物ではない。 以前話題になったセアカゴケグモ騒動で一躍脚光を浴びた(?)彼ら一族であるが、世間一般からすれば大型で見映えのするタランチュラと較べても、ペットとしては非常にマイナーであり、この種の動物に理解のない人にとっては、こんなものを飼育していること自体がド変態扱いされかねない生物ではある。 しかし実際に、まっとうな美意識を持つ人間であるならば、このブラックウィドウの繊細で優美、そして気品溢れる姿には、必ずやそこにある種の完成された「美」を見出すであろう。 アメリカ産の漆黒のタイプや、今回のマダガスカル産のように赤い斑紋を持つものなど、かなりのタイプがあり、どれもみな美しい。 雌雄の体格差が激しい(雄は成熟してもほんの数ミリの大きさ)ため、日本に入荷するCB個体(フランスのタランチュラ協会が出所だという…)は全て雌ばかりであるが、セアカゴケグモが帰化し、棲息している状態を見る限りでは、複数の個体がコロニーのように生活しているので、多頭飼育もそう難しくはないだろう。 もし雄が入荷されれば、繁殖もさほど困難ではないと思われる。 いかがであろうか。 ブラックウィドウ……死と隣り合わせの、繊細な美。 かれらを真に理解してやれる飼育者の方のみに、飼育していただきたい。 素晴らしい蜘蛛である。 図・文 小原明英 |